糖尿病のリスク・合併症について
糖尿病を放置していると、血管が硬く、脆くなる「動脈硬化」が進行します。血管は全身に張り巡らされているため、動脈硬化によるさまざまな障害が、全身の臓器・組織に生じます。
そして、脳梗塞や心筋梗塞といった「大血管障害」の発症リスクを高めます。いずれも、命に関わる疾患です。
また、大血管障害に対して、「細小血管障害」に分類される糖尿病網膜症・糖尿病腎症・糖尿病神経障害の合併も懸念されます。細小血管障害は、糖尿病特有の合併症として、糖尿病3大合併症とも呼ばれます。これらは、直接的に命を脅かす病気ではありませんが、失明や人工透析、足壊疽など、QOLを大きく低下させる危険性があります。
合併症
心筋梗塞
動脈硬化によって、心臓に酸素・栄養を供給する冠動脈が狭くなり、心筋が障害される病気です。糖尿病の他、高血圧・脂質異常症・喫煙・高尿酸血症もリスク因子となります。またこれらが重なれば重なるほど、発症リスクは高まります。
国内の死亡原因疾患の第二位は心臓病ですが、特に急性心筋梗塞の死亡率は30%にも達しています。また、心筋梗塞の範囲が40%を越えた場合には、さらに死亡率が高くなります。
糖尿病の方は、急性心筋梗塞に伴う胸・背中・頸部の痛みを感じにくくなっているため(無痛性心筋梗塞)、そのことが受診のタイミングを遅らせ、死亡率を高める原因となっています。
脳梗塞
動脈硬化の進行によって脳の血管が詰まり、その先への血液の供給が滞る病気です。詰まった部位によって、半身麻痺、言語障害などさまざまな症状を引き起こします。
特に半身麻痺が生じた場合にはQOLへの影響が大きく、食事、入浴、トイレなど、これまで当たり前に行っていたことが介護なしでは行えなくなります。
糖尿病の方は、そうでない方と比べると脳梗塞を発症するリスクが2倍以上(男性2.2倍・女性3.6倍)にも上ります。糖尿病の診断を受けてからも、血糖コントロールによって脳梗塞の発症リスクの上昇を防ぐことが大切です。
末梢動脈性疾患(閉塞性動脈硬化症)
足の動脈硬化の進行によって、動脈の狭窄・閉塞が起こり、下肢に関連するさまざまな障害を招く病気です。
具体的には、長く・速く歩けない、痛みで運動ができないといった症状が挙げられます。進行すると、潰瘍・壊疽、そして足の切断にまで至ります。さらに、足の切断後の1年間での死亡率は40%以上にも上ります。
糖尿病の方は、定期的にABI検査(足の動脈硬化の検査)を行い、足の動脈硬化の進行を防ぐことが大切です。
細小血管障害
細小血管障害とは、糖尿病の3大合併症とも呼ばれる「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」「糖尿病神経障害」のことを指します。
糖尿病網膜症
眼の奥にあり、カメラでいうとフィルムの役割を果たす「網膜」には、光・色を感知する神経細胞が存在します。動脈硬化の進行によって網膜の細い血管が障害されることで、栄養・酸素が十分に運ばれなくなり、視力低下などの症状を引き起こします。これが、糖尿病網膜症です。
糖尿病網膜症は、かなり進行するまで症状がありません。一方で、糖尿病の方の約4割が、糖尿病網膜症を合併しています。そして、年間3,000人以上の方が、失明にまで至っているのです。
糖尿病と診断を受けた時点で、網膜症の検査と予防を開始することが大切です。提携する眼科と協力しながら、糖尿病の進行および網膜症の発症を防ぐ治療を行います。
糖尿病神経障害
動脈硬化によって栄養不足になって神経がダメージを受け、しびれ、冷えなどの症状をきたす病気です。
症状は手足で現れやすく、特に最初の発症は足先となることがほとんどです。具体的な足の症状としては、足先の痺れ、冷え、足の裏に紙が張り付いたような感覚などが挙げられます。また、痛みに対して鈍感となるため、小さな傷に気づかず感染・悪化し、足壊疽に至ることもあります。
また、自律神経も障害されることから、胃腸の不調(胸やけ・吐き気・消化不良・下痢・便秘)、心臓・血管調整の異常(無痛性心筋梗塞・起立性低血圧・頻脈・徐脈)、泌尿器・生殖器の異常(排尿障害・ED)、発汗障害(汗をかかない・乾燥肌)なども起こります。
糖尿病腎症
腎臓は、老廃物や塩分を尿として体外へと排出させたり、血圧をコントロールしたり、血液を作ったり、体内の水分の量を調整したりと、さまざまな役割を担っています。
糖尿病腎症とは、動脈硬化によってこの腎臓の機能が障害される病気です。老廃物の排出が不十分になる、尿中にタンパク質が漏れ出す、身体が浮腫むといったことが起こります。
進行すると、血液のろ過が行われなくなり、体内に老廃物・水分が溜まってしまいます。腎不全や尿毒症にまで至ることもあります。
認知症
慢性的な高血糖が脳血管を障害し、アルツハイマー型認知症の原因になることがあります。実際に、HbA1cの上昇によって、認知機能が低下することが分かっています。
糖尿病の方が認知症を合併すると、インスリンの自己注射、その他薬の管理が難しくなり、ご家族のご負担が増大します。
糖尿病足病
末梢動脈性疾患(閉塞性動脈硬化症)による足の血流低下、糖尿病神経障害による足の感覚の鈍化、高血糖による免疫の低下が重なることで、足の細菌感染およびそれに気づけず放置してしまうリスクが高くなります。細菌感染を放置することにより、潰瘍や壊疽といった足の病変、そして最悪の場合には足の切断に至ります。
「まさかそんなになるまで気づけないなんて…」と思われるかもしれませんが、足(特に足裏)の傷は、痛みや痺れなどの異常がないと、なかなか気づけません。また、糖尿病網膜症を合併している場合には、視力低下も相まってさらに傷に気づきにくくなります。
糖尿病足病変の予防・早期発見には、医療機関での定期的なフットチェック、ご自宅でのセルフチェックが欠かせません。